すべての欲望を叶えてくれる世界に来た男|その結末に学ぶ幸福の本質

すべての欲望が満たされれば人間は幸福になれるのか?

望むものすべてが手に入る世界があったなら、人は果たして幸福になれるだろうか?

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  • 恋人
  • 名声
  • 称賛
  • 社会的地位

SNSなどを拝見するに、こうした欲望を満たそうと必死に生きている人が少なくないが、本当にその先に幸福があるのだろうか?

その問いに答えるかのような物語がある。

今回はその物語の結末から幸福の本質を探ってみよう。

どんな願いも叶えてくれる世界に来た男

ある日、ロッキー・バレンタインは闇の中を一人歩いていた。

詐欺と強盗を繰り返す冷酷な犯罪者 ──
それが彼だった。

真夜中の質屋のショーウィンドウに映る自分の顔を見て、口元にいやらしい笑みが浮かべる。そして質屋に侵入したロッキーはためらうことなく店主を殺害して金品を奪った。

だが次の瞬間、サイレンの音とともに警官たちが押し寄せる。

逃げ場を失ったロッキーは抵抗するも銃撃を受け、その場で命を落としてしまうのだった。

死んだはずのロッキーが目を覚ます

???:「バレンタインさん ──」

死んだはずのロッキーを呼ぶ声が聞こえる。

???:「起きてください、バレンタインさん」

ロッキーが目を覚ますと、そこには真っ白なスーツを上品に着こなした初老の紳士が立っていた。

ロッキー:「俺は死んだはずじゃ…」

???:「あなたをお迎えに上がりました」

その初老の男はロッキーを案内するガイドだと言う。そして柔らかな微笑みを浮かべながら自らを「ピップ」と名乗った。

ロッキー:「ガイドだと、一体どういうこどだ…」

事態を飲み込めず戸惑うロッキーだったが、ピップは彼を豪華なペントハウスへと案内した。

ピップ:「バレンタインさん、どうぞこちらへ」

すべてが手に入る世界へ招待

豪華な部屋へ導かれたロッキーはこう告げられた。

ピップ:「バレンタインさん、ここではあなたの望むものは何でも手に入ります」

怪訝な眼差しを向けるロッキーだったが、ピップは彼に上品で艷やかなスーツを与え、さらに豪華な料理に美酒、山のように積まれた財宝、そして女優のように美しい女性たちを差し出した。

ピップはロッキーが望むものを何でも与えてくれた。

光沢感溢れるスーツに身を包み、妖艶な美女をはべらせ、煌めく銀食器と芳醇なワインに舌鼓を打ち、カジノに行けば連戦連勝。

何もかもがロッキーの思い通りになった。

ロッキー:「俺は天国に来たんだ!!!」

ロッキーは自分が天国に来たのだと悟り、欲望の赴くままに快楽を貪った。

どんな願いも叶えてくれる世界の真実

ほどなくしてロッキーに異変が起こる。

ロッキー:「何かがおかしい。こんなに全部がうまくいくなんて不自然すぎる」

望むものは何でも手に入り、すべてが彼の思い通りになる。何をしても失敗などすることなく、どんな欲望であっても瞬時に満たしてくれる世界。

ロッキーはそれを「天国」だと信じ、愉悦に浸っていた。

しかし何もかもが思い通りになる世界にやがて退屈を覚え、苛立ちを募らせるようなった。

ロッキー:「なぁピップ、こんなの面白くもなんともねぇよ。俺はもっとリアルな刺激が欲しいんだ」

ピップ: 「ここはあなたの望む世界です。すべてが完璧に用意されています」

ピップは穏やかにそう答える。

ロッキー:「もう嫌だ!俺をここから出してくれ!」

苛立ちが限界に達したロッキーは叫ぶ。

ロッキー:「こんな退屈なところ天国でもなんでもねぇ!これじゃまるで地獄じゃねぇか!!!」

その言葉を聞いたピップは微笑を崩さぬままこう言った。

ピップ:「ここをどこだと思っていたのですか?」

何もかもが思い通りになる世界 ── そこは天国ではなく…

何もかもが思い通りになる世界。
失敗も挫折もなく瞬時に欲望を満たせる世界。

天国に来たと思いきや、そこは地獄だったという物語だ。

このお話は1959年に米国で放送された「THE TWILIGHT ZONE(トワイライトゾーン)」というTVドラマの第28話「A Nice Place to Visit(ア・ナイス・プレイス・トゥ・ヴィジット)」というエピソードからの引用だ。

<概要>
原題:THE TWILIGHT ZONE(邦題:ミステリーゾーン)
シーズン1・第28話:A Nice Place to Visit(邦題:地獄にきた男)

画像:A Nice Place to Visit
© CBS Broadcasting Inc.
© CBS Studios Inc.

僕たち人間は誰しも苦労することなく、最短ルートでゴールに到達したいと願う。お金も恋愛も仕事も何もかもすべてが順調に進み、欲しいものはいつでも簡単に手に入る。

そんな人生こそが理想だと考える人も少なくないだろう。

しかし、それは本当に幸福と呼べるのだろうか。

もし実現したとして心の奥底まで満たされるのだろうか。

幸福な人生はRPGのようなもの

ゲームの代表的なジャンルにRPGがある。

RPGではプレイヤーがキャラクターを操作し、試練を乗り越えながら物語を進める。ゲームのゴールはエンディングへの到達だが、RPGの真の楽しみはエンディングを見ることそのものではないはずだ。

敵を倒してお金や経験値を稼ぎ、強い武器を手に入れ、魔法やスキルを育成し、新たな仲間と出会い、ダンジョンを突破して次の物語が展開していく。この「一歩ずつ進む過程」こそがRPGの醍醐味であり、困難を乗り越えたときほど充実感と達成感は大きくなる。

つまりエンディングへの到達は最終的な「結果」ではあっても、本当に心を動かすのはその結果に至るまでの「過程」にあるのだ。

国民的RPGの最新作が発表!


なんと最初からレベル99&最強装備
所持金もアイテムも無限に使用可能
さらにゲーム開始5分でエンディングに到達できる機能搭載!!!

こんなゲームがあったとして何がおもしろいのだろう。

安楽を求める怠惰な心が人生を灰色に染める

しかし現実の人生になると不思議なことが起こる。我々の多くはその「つまらない状況」をむしろ望んでしまうのだ。

たとえば以下のような心理がその一例といえるだろう。

  • 遊んで暮らせるお金がほしい
  • 簡単に儲かる方法を知りたい
  • 努力せずに昇進したい
  • 勉強せずに合格したい
  • 相手から歩み寄ってほしい
  • 相手から告白してほしい
  • 自分は変わらず相手が変わるのを望む
  • 運動や食事制限はしたくないけど痩せたい

何かを成し遂げるには相応の研鑽や試行錯誤が必要だが、その面倒な過程をすっ飛ばして望む結果だけを得たいと考える。

人間は本能的に「努力をしたくない」「危険を避けたい」と思うものだ。それは飢えや疲弊を避けるためにエネルギーを温存し、捕食者や自然災害の脅威から身を守るためにDNAに刻まれた生物としての本能だ。

しかし僕たちが生きているのは原始的な狩猟採集社会ではない。飢えや捕食者の恐怖よりも、退屈や虚無のほうが大きな脅威といえないだろうか。

もしも人生に充足を感じられないなら、それは「結果」ばかりを追い求め、「過程を楽しむ」ことを忘れてしまっているからかもしれない。

ロッキーが体験した“すべての欲望が叶う世界”は、安楽を求めすぎた先に待ち受ける究極の結末といえるだろう。

本当に人の心を満たすのは挑戦と困難を経て得られる充実感や達成感なのだ。

反 逆 の 幸 福 論
旅は道程そのものが報酬。
幸福は「結果」ではなく「過程」にある。

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PROFILE

アラン・スミシー

何者でもないどこかの誰かさん。

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